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「拒絶理由への対応」

技術第2部 吉田 隆之

 特許を出願すると、多くの場合、審査官から拒絶理由が通知されます。

 

 私は、32年間、審査官・審判官(審判長)でしたので、多くの拒絶理由を通知しました。「ちょっとしたミスを直せば特許!」と思って書いた拒絶理由も、「殆ど特許になる可能性はないのでは?」と思って書いた拒絶理由もあります。「こういうポイントがクレームに入ればOK」と思って書いた拒絶理由も少なくありません。必要以上に請求項を限定しなくても特許は取得できますし、審査官の勘違いや見逃しが意見書で指摘されれば補正無しで特許する場合もあります。審査官も色々ですから、全員がこう思っているとは限らないのですが、多くの審査官は、特許するポイントを決めている場合も多いように思います。いろいろな思いで拒絶理由を書きましたが、「補正案」を記載する場合を除き、「審査官の思い」は拒絶理由に記載しません。「審査官の思い」は、拒絶理由ではありませんから。

 

 「審査官の思い」は拒絶理由に記載されていませんが、審査官と出願人が「良いコミュニケーション」を取ることがとても重要と思っていました。欧州特許庁では拒絶理由を「コミュニケーション」と呼んでいますが、審査官(審判官)にとって「良いコミュニケーション」、つまり「良い拒絶理由」とは、「審査官の思い」が伝わる拒絶理由であると思っています。同様に、「良い意見書(補正書)」とは、「出願人(請求人)の思い」を読み取れる意見書(補正書)と思っていす。お互いの思いを誤解しているのは、とても不幸なことですし、「良いコミュニケーション」が取れていなければ、多くの場合は拒絶査定となります。しかも、お互いに「どうしてわかってくれないのか?」というストレスも生じます。

 

 審査官は、クレームの記載に基づいて審査しますので補正書は最重要ですが、「良いコミュニケーション」には、意見書も重要です。定型文の意見書は1分も読んでくれませんが、意見書によって拒絶と特許の判断が変わる場合も多いです。特に審判部からみると、審査官が微差と考えている点が実際は微差ではなく、きちんと意見書で主張していれば結論が変わったのではないか?と思ったことも少なくありません。審査官も、勘違いや見逃しはありますが、指摘しなければ審査官は勘違いに気が付きません。

 

 代理人となった現在でも、審査官と良いコミュニケーションをとることが重要であると考えていることには変わりがありません。拒絶理由に対しては、発明の肝(ポイント)が表された請求項を記載した補正書を作成し、審査官の思いを想像した上で出願人の思いを込めた意見書を作成する、という対応が特許取得の近道であると思っています。

 私が審査官だったことは、拒絶理由から審査官の思いを想像する時に有利であると思っていますが、それでも、審査官の思いを想像することは難しいです。

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